事例紹介

Category  相続税

2018年07月03日 更新

親の死後に相続した不動産・家を売却する時の注意点

人が亡くなると、その人が所有する不動産は相続人に相続されます。

一般的に相続の順位は、

  1. 配偶者
  2. 被相続人(亡くなった方)に子供がいる場合は子供
  3. 子供がいない場合は被相続人の親
  4. 子供も親もいない場合は被相続人の兄弟姉妹

となります。

配偶者の取り分は誰と分けるかで変わります。①の場合は配偶者が1/2で残りの1/2を子供達で頭割りし、②の場合は配偶者が2/3、③の場合は配偶者が3/4で残りを親、兄弟姉妹で頭割りします。

具体的なケースでは、親の配偶者も亡くなっている(両親とも亡くなっている)場合、子供がいれば、相続人は子だけになります。子供が複数のときは、人数に応じて等分に相続権を持ちます。子供がいない場合は、親の親が生きていれば相続権を持ち、子供も親の親もいなければ、親の兄弟姉妹が相続権を持ちます。親名義の不動産を売るためには、必ずしなくてはならない重要なことがあります。それは、家と土地の名義を相続人に変更しておく手続きです。

1. 亡くなった親の名義では不動産は売却できない

不動産の売却では、買主が所有者である売主と売買契約を結びます。売主が亡くなっている場合、契約の主体となることができないので、売却の前に相続人の誰かに名義を変更しなければなりません。

2. 死後に売る場合は相続登記が必要となる

名義を変更するには、相続登記という手続きが必要になります。相続登記とは、法務局(全国に支局や出張所などがあります)に行って、登記申請書を提出する手続きです。

相続登記は法律上の期限を決められているわけではありません。よって、相続登記をせずに放置していてもなんの罰もありません。ただし、問題は別にあるのです。

遺産分割協議により、通常の法定相続分とは異なる相続分の不動産を相続したときは、きちんと相続登記をしていなければ第三者に「この不動産は自分のものだ」と主張することができません。よって遺産分割協議により不動産を相続する場合には、相続登記をかならず行なうことが必要となります。

2-1. 相続登記に必要となる書類など

必要書類は、以下のようになります。

  1. 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍
  2. 新たに名義人となる相続人の戸籍と印鑑証明
  3. 相続人全員の住民票
  4. 遺産分割協議書(遺産分割協議があった場合)等

さらに、登録免許税という手数料もかかります。

登録免許税は、家と土地それぞれの評価額(相続される家・土地の価値を一定の基準で求めた金額)に対して0.4%になります。例えば、評価額2,000万円の土地なら、8万円かかるということです。

①亡くなった親の出生から死亡までの戸籍

相続人の調査においては家族関係をすべて網羅している必要があるので、戸籍抄本ではなく戸籍謄本が必要です。

婚姻または死亡すると、その者は従来の戸籍から外れることになります。これを除籍といいます。相続は被相続人の死亡により始まりますので、被相続人は戸籍から除籍されます。つまり、相続手続きでは相続人の戸籍謄本と、被相続人の死亡を証明するため除籍の記載がある戸籍謄本または除籍謄本が必要となります。

相続人が被相続人の子だけの場合、または被相続人の配偶者とその子が相続人の場合は、他に相続人はいません。従って、上記の戸籍謄本及び、除籍謄本(または除籍の記載のある戸籍謄本)で相続関係は証明できます。被相続人の出生から死亡までの証明も、これらの書類で不足はありません。

しかし、被相続人に子、孫がいない場合は、直系尊属(両親等)または兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。また、直系卑属(子、孫)、直系尊属がいない場合は兄弟姉妹が相続人になります。この場合は被相続人の除籍謄本(または除籍の記載のある戸籍謄本)だけでは足りず、被相続人の両親(直系尊属)の戸籍謄本も必要です。

両親が既に亡くなっている場合は除籍謄本(または除籍の記載のある戸籍謄本)も取得しなければなりません。兄弟姉妹はその上さらにそこから戸籍をたどる必要があります。このように相続人に兄弟姉妹が入る場合は、必要な戸籍が増えて手続きが煩雑になります。

③相続人全員の住民票

相続人が相続時に生存していることを証明するために戸籍謄本が必要となるのに対し、不動産を相続する相続人の正確な住所を登記に記入するために相続人全員の住民票が必要になります。

④遺産分割協議書(場合により)

法定相続分は民法によって決められていますが、それは相続分の指定がない場合の、各相続人の分け前を定めたものです。つまり、相続分というのは、相続人はそこまで権利を主張できるという限度のことになります。

民法906条によると、遺産の分割は遺産の種類、性質や各相続人の職業その他の事情を考慮して行うべきものと定められています。従って、協議で分割する場合は、法定相続分の分け前と違っても有効となります。その分け前の調整を話し合い、共同相続人全員が合意したものが分割協議書になります。

法定相続分を修正して相続人同士の遺産分割協議によって相続する場合には、遺産分割協議書が必要です。遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があります。遺産分割協議書には、誰の遺産に関する話し合いであり、どの遺産について誰が相続するのか、協議で決定したことを明示する必要があります。つまり、遺産分割協議書は、分割協議の取り決めを確固たるものにして、相続人全員の意思を明確にして、後日の争いを防ぐための書類なのです。

作成のルールは以下のようになります。

  • 書式は、縦書きでも横書きでも書き易い方式で構いませんが、一般的にはA4サイズの横書きになります。
  • 方式は、自筆証書遺言と違い、自筆でもパソコンで作成しても構いません。紙も市販の用紙で構いません。
  • 署名は、相続人全員の自署になります。
  • 押印は、相続人の方の実印で押印してください。本人確認為に印鑑登録証明書の添付が必要です。
  • 枚数が複数におよぶ場合は契印を押してください。
  • 添付書類として、相続人全員の印鑑証明書と住所証明書(住民票)が必要になります。

※捨印については、押すべきではありません。予め訂正が想定される協議書だった場合には、加除訂正を要求してください。

内容は、すべての財産を一括してもそれぞれの財産別でも構いません。提出先ごとにその財産内容を記載しても構いません。

3. 死後の不動産・家の売却には相続人全員の合意が必要

遺産分割の方法は、まず遺言がある場合はこれに従うことになります(指定分割)。このような遺言が無い場合には、相続人全員で話し合って遺産分割を決めます(協議分割)。

しかし多数決という訳にはいきません。相続人全員の合意が必要で、その合意内容を遺産分割協議書としてまとめます。相続した家や土地の売却にも、相続人全員の合意が必要であり、1人でも反対すると売却ができなくなります。

法律では法定相続分が決まっていても、具体的に誰がどの遺産を相続するかとなると、各相続人が話し合い協議するしかありません。こと細かく主張して1円単位まで厳密に分割できるはずがない上に、各相続人にはそれぞれの事情があります。遺産分割に関しては、お互いがある程度譲歩することも大切です。

利便性のため、遺産分割協議で誰か1人を代表者として家と土地の名義人にし、売却後のお金を皆で分ける方法が使われることもあります。

3-1. 法定相続人とは

法定相続人とは、法律で決まっている相続人のことです。亡くなった人の配偶者は常に法定相続人となります。その他は①直系卑属(子や孫)、②直系尊属(父母や祖父母)、③兄妹姉妹の優先順位で、上位がいない場合に下位に相続権が回ってきます。

相続人の範囲や法定相続分は、民法で次のとおり定められています。

3-1-1. 相続人の範囲

死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

第1順位:死亡した人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。

第2順位:死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になります。

第3順位:死亡した人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人になります。

なお、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。また、内縁関係の人は、相続人に含まれません。

3-1-2. 法定相続分

イ:配偶者と子供が相続人である場合
配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2

ロ:配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3

ハ:配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4

なお、子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。

また、民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。

(民法887、889、890、900、907)

4. 親の死後に売却する前に相続税の支払いが必要

相続税の支払いは、親が亡くなったことを知ってから10ヶ月以内に済ませなければなりません。相続税を支払う現金がないときは、相続して10ヶ月以内に売らないと、相続税の滞納になっていまいます。

相続税の納税は、延納・物納が認められたときを除き、原則、現金一括支払いとなっています。相続発生から10ヶ月以内に税金が支払えない場合、完納する日までの日数によって延滞税がかかります。

納付期限までに税金を支払わない場合、延滞している相続人に対して、督促・財産の換価処分・差押えなどの行政処分を受けることになります。万が一、督促状を受理した場合には、その後の行政処分に繋がらないよう、速やかに対応する必要があります。

相続税は、相続人全員が連帯納付義務を負うことになります。延滞している相続人がいる場合、別の相続人に対しても、原則的に相続税と利子税の請求がなされることになります。

4-1. 相続税の控除額

相続税には控除(税金の対象にならない金額)という仕組みがあり、最終的な相続税の金額は控除次第で決まります。基本的には、親の全財産が、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えると相続税がかかります。「法定相続人の数」には相続放棄をした人の人数は入りません。上記の計算式よりも不動産を含めた財産が少なければ、相続税を支払う必要はありません。

5. 相続後3年10ヵ月以内に不動産・家を売却した場合

以下の①~③の条件を満たす場合、取得費加算の特例の適用対象となります。

  1. 相続や遺贈により財産を取得している。
  2. その財産を取得した人に相続税が課税されている。
  3. その財産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している。

③において、相続税の支払い期限は被相続人が亡くなったことを知ってから10ヶ月なので、「相続開始のあった日の翌日」から「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日」は3年10ヶ月ということになります。

5-1. 取得費加算の特例

相続した財産を3年以内に売却した場合に、支払った相続税の一部を売却時の利益にかかる所得税から控除し節税を行うことができる特例のことを、取得費加算の特例といいます。

資産を売却した場合には、通常、売却代金から費用を引いた利益部分に所得税がかかります。この特例により相続税の一部を費用に加えることができ、利益を小さくすることができるので、所得税を減らすことができます。

6.  親が亡くなっている場合の内容

親であっても、他人から借りている土地の上に自分名義の家を建て、その家を売る場合は注意が必要です。この場合、土地を借りて使用している借主は「借地権」を有していることになります。

借地権とは土地を借り受ける権利のことで、この借地権を家と一緒に買い手に譲渡しなければなりません。従って、建物のみの譲渡はできず、借地権という権利を付けて売らなければなりません。

この場合、土地の権利者(地主)に無断で借地権を譲渡することはできません。土地を他人に貸すということは、権利者にとっては大きな決断です。信頼できる相手でなければ後のトラブルになる危険もあるので、土地の貸し手と借り手の間には信頼関係がなければなりません。そのため、借地権は勝手に他人に譲渡することはできず、土地権利者の承諾が必要になります。

一般的には相応の承諾料を支払うことで承諾を取ることが多いとされていますが、土地の権利者(地主)が親の場合は無償で可能な場合もあるでしょう。

一方でもし土地権利者が承諾料の支払いを以ってしても地主の承諾が取れない場合、原則としてその土地上の建物は売ることはできません。これを覆すには裁判所にかけあって、一定の条件下で土地権利者の承諾に代わる「借地権譲渡の許可」を取らなければなりません。

さらに、土地権利者もその手続きの中で、他人に売り渡すのではなく、自分でその建物を買い取る権利を行使することもできます。これによって売り手は代金の回収ができ、土地権利者は他人に借地権を与えずに済みます。

7. 専門家の力も借りて親の不動産を売却する

親の不動産の売却を死亡後に売る場合、以下のような注意事項があります。相続登記の必要書類、遺産分割協議書、法定相続人、相続税の支払い・控除額、取得費加算の特例、親名義の土地の自分名義の家の売却等について見てきました。状況に関係なく相続登記は必要ですが、遺産協議で法定相続分と異なる相続分にした場合は対外的に権利を主張するために特に重要です。

相続では複数の相続人でトラブル発生の可能性があり、相続後は相続税がかかり、相続前に贈与すると高い贈与税が発生するなど、大変なことが多いです。自力で解決が困難な場合は適宜専門家などの助けも借りながら乗り切りましょう。