事例紹介

Category  相続税

2018年08月24日 更新

【相続税】不動産を活用した節税対策~不動産鑑定から生前贈与まで~

相続した場合かかってくるのが相続税。相続税は想像以上に負担が大きいのが現状です。

そんな中、相続税対策として不動産を活用する方も多いのではないでしょうか?不動産活用の方法、計算方法、不動産鑑定について説明していきましょう。

1. 相続税対策としての不動産活用

相続税対策として不動産の保有が有効、ということをまわりで耳にする方は多いかと思います。現預金より不動産の方が節税になる、というけれど、なぜそうなるのか、段階的に説明していきたいと思います。

 

1-2. 相続税の計算方法~遺産総額について~

まずは相続税の一番の基礎である、相続税の計算方法から見ていきます。相続税の計算は、大きく3段階に分けて考えることができます。1つ目は遺産総額を求めることです。遺産総額は預金や証券、不動産等すべての財産を合計し、そこから借金等のマイナス資産を差し引いた金額となります。

遺産総額=(プラス資産)-(マイナス資産)

 

1-2. 相続税の計算方法~基礎控除について~

2つ目の計算は基礎控除です。この遺産総額がまるまる課税対象額となるわけではなく、ここから3,000万円と相続人の数×600万円を差し引いた額が課税対象額となります。これを課税遺産総額といいます。

課税遺産総額=遺産総額-(3,000万円+600万円×相続人)

 

1-3. 相続税の計算方法~課税額について~

3つ目の計算が課税額の計算です。課税遺産総額が0円以下の場合は、非課税となります。それ以外の場合は、法定相続のあん分を計算し、各々の取得金額を求めます。取得金額ごとに税率が異なってきます。その一覧です。

法定相続分に応ずる取得金額  税率    控除額

1,000万円以下        10%     -
~3,000万円以下       15%    50万円

~5,000万円以下       20%    200万円

~1億円以下         30%    700万円

~2億円以下         40%     1,700万円

~3億円以下         45%     2,700万

~6億円以下         50%     4,200万円

6億円超           55%     7,200万円

 

1-4. ケーススタディ

おさらいとして、一つ例を出してみます。

例)夫と妻、子供2人の4人家族のご主人が亡くなった場合。

夫の持っていた財産は不動産が1億円、貯金が5,000万円、株が2,000万円だったとします。

まず、遺産総額は上記の合計1億7,000万円となります。ここから基礎控除を差し引きます。今回の相続人は妻と子供2人の計3名ですので1億7,000万円(遺産総額)-4800万円(基礎控除額=3,000万円+600万円×3)=1億2,200万円が課税遺産総額です。

1億2,200万円の課税遺産総額を法定相続であん分しますと、妻が6,100万円、子供がそれぞれ3,050万円です。そのため相続税は妻が6,100万円×30%-700万円(控除額)=1,130万円、子供が3,050万円×20%-200万円(控除額)=410万円が相続税ということになります。

 

2. 市場価格と評価額のかい離による節税

先ほど相続税の計算方法を見てみました。相続税は不動産や証券等の金融資産を合計した額から計算していくことが分かるかと思います。実はこのことにカラクリがあります。現預金や証券はその時価で遺産総額に加算されていきますが、不動産は別の方法で価値を計算することになり、現預金よりも遺産総額を抑えることができるのです。

 

2-1. 相続時の不動産の値段はどうなるの?

不動産の相続時の価格は、まず土地に関しては「路線価」というものを用いて計算されます。路線価というものは国税庁が毎年発表している、道路ごとの土地価格をさだめたものです。道路によって値段が異なり、その道路に面している土地の1㎡あたりの値段がきめられています。この路線価は、一般的な住宅としての需要が見込める場所であれば、実際に売買されている市場価格の7~8割程度となります。そのため、現金でもっているよりも、相続時の評価額が低くなる傾向にある、ということです。

今のは土地の計算ですが、建物の評価額にも別の評価基準があります。建物の場合は固定資産税評価額が基準となります。この評価額は実際の施工費用の半分程度まで最大で下がることもあります。現金でもっているよりも、不動産として持っている方が、相続時に計算される評価額が低いため、遺産総額を圧縮することができます。この、実際の市場価格と相続時の評価額のかい離が、相続税対策としての不動産保有の理由として挙げられます。

2-2. 節税対策としてのタワーマンション

現在では税制が変わってしまい、あたらしく購入した物件には適用されませんが、節税対策としてのタワーマンション購入も先ほどの相続税対策と考え方が似ています。

マンション1室の税金の評価は、区分所有でもっている共有持分の土地の額と、家屋としての固定資産税評価額となります。

そのため同じ面積の部屋であれば、マンションの1階でも50階でも同じ評価額となります、実際の市場価格は倍以上なんてこともざらだと思います。市場価格と税務上の評価額のかい離を利用した節税対策と言えます。

 

3. 不動産鑑定士を使った相続対策

市場価格と評価額のかい離が、不動産における相続税対策の基本と言えます。そのほかには不動産鑑定士による不動産鑑定評価額を用いた対策というものもあります。まずは不動産鑑定評価額がどんな内容なのか、説明していきます。

3-1. 不動産鑑定評価額とは?

不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士が鑑定をした不動産価格のことです。不動産の取引は個別性が強く、その正確な価値を算出するのが非常に難しいといわれています。そのため法律によって定められた不動産鑑定評価基準という統一基準に基づいて不動産鑑定士の資格者が行ったものだけを不動産鑑定評価額とみなしています。

 

3-2. 不動産鑑定評価額はどのような時に利用されるのか

不動産鑑定評価額は法律で定められた基準に基づき鑑定士の有資格者によって得られるものですから、その正当性か、公示地価や基準地価、路線価等、公的な不動産価格の作成にも不動産鑑定評価額が用いられています。

 

3-3. 不動産鑑定評価額は相続税対策にならない?

公的な不動産価格の根拠として不動産鑑定評価額が用いられているわけですが、鋭い方であれば、それが節税対策にならないのでは?とお思いになるでしょう。

相続時の不動産価格は、不動産鑑定士が作成した不動産鑑定評価額に基づく相続税路線価や固定資産税評価額を拠り所としているからです。

不動産鑑定士は法的な基準に基づいて価格を出しており、税務署への申告のために安く見積もっておくれ、という依頼をしたところで、結局は公に公開されている路線価や公示地価と同じ様な結果となってしまうわけです。

 

3-4. 相続税対策として不動産鑑定士に依頼するケース

相続税対策として不動産鑑定士に依頼をするケースは、実際のところはあまりないですが、ごくまれに、路線価で相続税を計算してしまうと、市場価格よりも著しく高い評価となってしまう場合もあるため、そうした場合には不動産鑑定士へ不動産鑑定評価額を依頼する方がいいかと思います。例えば不整形地で利用できない面積が大きい、ですとか、土壌汚染がある、と言った場合には、同じ道路に接している他の土地とは価格に差が出ますよね。

路線価で計算すると5,000万円の土地が、実際に買い手が見つかるのは3,000万円ほどだとすると、路線価による相続税評価では、余分に税金を支払ってしまうことになりかねません。

上記のように、実際に売れる金額よりも明らかに高い価格の相続税評価額となってしまった場合はどのようにすればよいのでしょうか。続いて説明します。

 

3-5. 不動産鑑定評価額に基づく還付請求

まず、路線価に基づく納税評価額のまま、申告をします。申告が済んだら不動産鑑定士に「不動産鑑定評価書」の作成を依頼しましょう。

この不動産鑑定評価書を添付して税務署に厚生請求を行い、認められれば還付を受けることができます。

 

4. 生前贈与を活用した相続税対策

不動産に関する相続税対策としては、そのほかに生前贈与を利用する方法もあります。ここでは代表的な2つの制度をご紹介します。

 

4-1. 住宅取得等資金贈与の非課税特例

不動産に関係する生前贈与の特例の1つとして、住宅取得等資金贈与の非課税特例というものがあります。これは両親等の直系尊属から住宅取得の為に資金援助を受けた場合の贈与税の非課税制度です。

通常であれば、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税がかかりますが、一定の条件を満たし、適用されれば最大で3,000万円まで贈与税が非課税になります。

この制度を利用すれば、現金を不動産に変え、なおかつ子に資産を残すことができます。

 

4-2. 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、贈与を行い、課税は相続時に行う、というものです。この制度を使って贈与をすると、最大で一人につき2,500万円まで、贈与税が非課税になります。2,500万円を超える部分は20%の税金がかかります。

この制度によって贈与された資産は相続時に課税財産に含めて計算し、2,500万円を超える分で贈与時に納税した金額は控除して計算します。この制度を利用すると、少ない税率で贈与ができ、なおかつ相続時までその資産を運用することができます。

被相続人がアパートを買って運用すると、資産がどんどん増えてしまい、相続時には課税財産が膨らんでしまいますが、贈与しておけば、その投資不動産の収入は相続人のものとなり、節税効果が期待できます。

 

5. まとめ

さて、ここまでいろいろな節税の制度を見てきましたが、実際に金融資産を不動産に変えると、どの程度節税になるのか具体的に例を挙げてみていきましょう。

(例)男一人(50歳)、子一人(25歳)の家庭で節税対策。男性(以下、Aさん)の資産は金融資産のみで合計2億円だった場合。

 

5-1. ケースその1~現金のまま相続した場合~

まず比較のため、Aさんが金融資産のみでBさんが相続した場合からみていきましょう。この場合は単純に遺産総額が2億円となります。

2億円-{3,000万円+600万円×1(相続人数)}=1億6,400万円が課税遺産総額となります。2億円以下の税率は40%、基礎控除額は1,700万円です。1億6,400万円×40%-1,700万円=4,860万円がBさんの相続税となります。

 

5-2. ケース2~相続税対策として自宅を購入~

Aさんはすべてを金融資産としてBさんに相続させては税金が膨らんでしまうことに気が付き、1億5,000万円(土地1億円・建物5,000万円)の一戸建てを購入することを決意しました。購入するに当たり、5,000万円の住宅ローンを借りました(団信加入あり)。残りの1億円は自己資金を使いました。AさんとBさんはこの家に一緒に住むことにしました。

この状態でAさんが亡くなった場合、遺産総額は、残りの金融資産が1億円あります。不動産は土地が路線価に基づきます。対象地の路線価が相場の75%だとして、7,500万円と税務署が見なすとします。さらに居住用宅地の特例(亡くなった時に住んでいた自宅を、同居の息子が相続する場合、適用されます)で評価額から80パーセント減額され、1,500万円となりました。建物は固定資産税に基づきます。建築費用の70%が固定資産税の評価額だとすると、3,500万円となります。遺産総額は1億5,000万円となります。そのため、課税遺産総額は1億1,400万円、相続税は2,860万円となり、先ほどより2,000万円抑えることができました。

 

5-3. ケース2~アパートを購入した場合~

Aさんは相続税対策として1億5,000万円(土地が1億円、建物が5,000万円)のアパートを現金で購入しました。この状態で亡くなった場合、遺産総額は、残りの金融資産が5,000万円あります。

不動産は土地の路線価が相場の75%だとして、7,500万円となりますが、賃貸に出している場合、ここからさらに借地権割合に応じて評価が下がります。

対象の物件の所在地の借地権割合が7割だとします。この場合、7,500万円×{1-(70%×30%)}で5,925万円となります。建物は固定資産税評価額が3,500万円だとすると、全国一律で借家割合の3割分が差し引かれるため、2,450万円となります。

合計すると不動産は8,375万円まで圧縮されました。この場合の遺産総額は1億3,375万円となります。課税遺産総額は9,775万円、相続税は2,232万5,000円です。先ほどよりさらに圧縮されていることが分かります。

 

6. 最後に

以上、不動産を活用した相続税対策についてご紹介しました。相続税対策としての不動産の有効活用は、「市場価格と評価額のかい離」が大きなポイントです。

不動産鑑定評価額による相続税の還付や、生前贈与を利用した節税等も、この市場価格と評価額のかい離を応用したものです。相続税における不動産に関する特例は種類も多く、使いこなすのは難しいと思いますので、まずはこの一番の基礎を理解し、ご自身の相続税対策の方向性を見据えたうえで、税理士の先生に相談をされるのが良いかと思います。