事例紹介
土地活用として行うテナント経営には、大きく分けて、建物を建設して貸す方法と土地のまま貸す方法の2種類があります。アパートやマンションのような個人を対象とすることが多い住宅用の物件とは異なり、企業を対象にしているテナント経営では、賃貸住宅経営とは異なる点もたくさんあります。
今回は、建物を建設して貸すテナント経営を中心に、土地活用としてテナント経営をするメリットとデメリットを確認していきます。
1. 土地活用としてのテナント経営とは?
メリットとデメリットを確認していく前に、まず、テナント経営の2つの方法がどのようなものなのかを確認していきます。土地活用を始める場合には、まず幅広い選択肢を持つことも重要です。今回は、建物を建設して貸す方法を中心に確認していきますが、もうひとつの土地のまま貸す方法についても、その特徴をしっかりと把握しておきましょう。
1-1. 建物を建設して貸す方法
テナント経営をする際の基本的な方法となっているものが、活用したい土地に建物を建設し、そこを店舗やオフィスとして貸し出すという方法です。テナント経営と聞けば、この方法をイメージする人が多いでしょう。
建物を建設し貸す方法では、建物の建設に高額な初期費用がかかることが多いですが、収益性の高い経営をしていくことが可能になります。建物の利用方法としては、企業の事務所を中心としたオフィスビルや、飲食店や小売店を集めた商業ビルなどがあります。商業ビルでは、ファッション関係の店舗や雑貨店など、対象を絞ったビルにすることができます。
この他にも、対象を絞らず様々な業種の企業を入れた雑居ビルや、病院や薬局など医療関係の施設に特化したメディカルビルなど、同じ方法でも様々な利用方法が考えられます。他のビルと差別化するために、住居を併設したり、オフィスビルの中に商業施設を取り入れたりといった工夫をしていくことも可能です。
1-2. 土地のまま貸す方法
もうひとつの方法が、土地のまま貸すというものです。その土地を利用する企業が、自分たちの事業に合わせた建物を建設するので、土地のオーナーが建物の心配をする必要はありません。
収入は土地代のみになるため、建物を建てる方法と比べると収益性は低いですが、活用を始めるまでの費用や維持・管理の手間がかからないという特徴があります。また、企業によって建物が建てられたことにより、その企業が簡単に移転していく可能性が低くなり、長期にわたって安定した収入を得ることができるようになります。
2. テナント経営の6つのメリット
ここからは、テナント経営のメリットを確認していきます。基本的にテナント経営のメリットは、多くの土地のオーナーに魅力的なものばかりです。もちろん全ての土地に当てはまる訳ではなく、それぞれの土地でメリットの大小に差が出ることはあります。
今回は6つのメリットを取り上げてみました。どのような目的で土地活用をしたいのかを考えながら確認していきましょう。
2-1. テナントは賃料が高く設定できる
テナント経営は、アパートやマンションのような住宅用の物件の貸し出しと比べ、賃料を高く設定することができます。賃料を高く設定できるということは、それだけ賃料収入も多くなり、投資した金額をより短い期間で回収することが可能になります。
また、テナント経営では、契約後も賃料を上げることができる可能性が高いです。住宅用物件の貸し出しでは、たとえ契約更新があったとしても、一度貸し出してしまえば、その後賃料を上げることは極めて難しくなります。しかし、テナント用であれば、そのテナントの経営状態が上向きになってくると、賃料の上乗せ交渉をすることも可能であり、実現すれば投資した費用をさらに早いスピードで回収することができるようになります。
このような賃料の高さは、テナントを経営していく上での最大のメリットになります。住宅用の賃料と比較すると、テナントの賃料は1.5~2倍程度になるとも言われており、特に都市部などの商業施設やオフィス街のような人気の土地であれば、より高額な賃料設定も可能になります。
2-2. テナントはトラブルのリスクが低い
マンションやアパートなど住宅用物件の経営では、家賃滞納や騒音、ゴミ出し、住民間のもめごとなど、トラブルのリスクが付き物です。一方でテナントは、利用者のほとんどが法人であり、店舗や事務所など利用方法も明確なので、トラブルになるリスクは低くなります。
賃貸経営をしていく上で、利用者管理の一環として苦情やトラブルへの対応は避けては通れません。トラブルはできるだけ少ない方が良いですから、その可能性を減らせるという点は、テナント経営のメリットと言えるでしょう。
2-3. 賃貸住宅よりも立地の制限が少ない
テナント経営には、立地条件や周辺の状況に影響を受けにくいというメリットもあります。
アパートやマンションのような住宅を建設する場合、土地の形状や隣接する道路の状況、土地の広さなどに応じて、建築基準法によって制限が設けられています。そのため、住居スペースを狭くしなければならなかったり、場合によっては建設自体できなかったりします。
一方、ビルを建設することが多いテナント経営では、アパートやマンションなどと比べると建築基準法の制限も厳しくありません。そのため、アパートやマンションの建設ができなかった土地でも、ビルであれば建設できる可能性があります。
また、住宅用物件は、駅の近くや住宅街などニーズのある地域がある程度限られており、繁華街の近くやスーパーや病院などが近くにない地域などでは高い入居率を確保できなくなる可能性があります。一方でテナント向けの物件は、ニーズが高い地域というものはあるものの、住宅用物件ほど周辺の状況に左右されることがなく、賃貸住宅の経営には向いていない土地でも経営していくことができる可能性があります。
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2-4. 内装などで初期投資を抑えられる
テナント用の物件の場合、住宅用の物件ほど内装を整える必要がなく、初期費用を抑えることができます。基本的にテナント用として貸し出すのであれば、スケルトンと言われる建物の躯体の状態のまま貸し出すことが可能で、内装や設備などを整える必要はありません。また、土地のまま貸し出す方法であれば、建物の建設は借り手側が行うので、内装費のような初期費用はもちろん、建設費そのものが不要になります。
住宅用物件は、借り手目線で考えてみても、トイレやお風呂、キッチンなど、ある程度内装にお金を掛けている方が良いでしょう。特に、同じような賃貸住宅が立ち並ぶ地域では、入居者の募集に有利になるよう、他の物件よりも良い設備の導入も検討しなければなりません。
このように、内装まできちんと整えなければならない住宅用物件と比べると、テナント用物件はスケルトンの状態でも貸し出しを始めることができるので、初期投資を抑えられるという点は大きなメリットになるでしょう。
2-5. 賃貸住宅よりも転用しやすい
テナント経営では、定期借家契約を結ぶことが多いので、賃貸住宅経営よりも転用しやすいというメリットもあります。定期借家契約とは賃貸契約の方法のひとつで、契約期間が終了した時点で確実に明け渡される、契約更新のない契約のことです。
住宅用物件の契約では、契約の更新ができる普通借家契約が採用されることが多く、借主が契約更新を希望しているのであれば、正当な事由がない限り、貸主はそれを拒否することができません。そのため、一度、賃貸住宅経営を始めて、誰かに部屋を貸してしまうと、自分の都合だけで土地や建物を手放したり解体したりできなくなってしまいます。
その点、定期借家契約での契約になることが多いテナント経営では、このような不自由さは少なくなります。契約期間も契約時に決められているので、契約終了後の活用方法について前もって考えることができ、計画的に準備を進められるようになります。このような転用のしやすさも、テナント経営の魅力です。
2-6. 相続税対策として使える
テナント経営は、相続税対策としても利用できます。テナント用物件として建物を建設した場合には、アパートやマンションを建設した場合と同じように、税制上の優遇措置を受けることが可能です。
テナント用のビルが建っている土地は、相続税の評価をする際に貸家建付地という分類になります。貸家建付地とは、自分で建てた建物を他の誰かに貸して利用している土地を指し、本来所有者のものである財産を他の人が利用していることで、所有者本人の利用が制限されていると考えられているため、税制優遇の対象となっています。
貸家建付地に対する相続税は、更地や駐車場として利用している場合と比べると、負担額は2割程度下がると言われています。相続税の評価には、入居率なども影響してくることから、上手く経営ができていれば、より効果的な相続税対策となります。
また、相続税以外にも所得税の節税効果も期待できます。経営開始直後では、テナント経営の収支が赤字になることも多く、他の所得と合わせることで課税対象となる所得の額が減り節税につながります。
3. テナント経営の4つのリスク
次は、テナント経営のデメリットを確認していきます。今回は4つのデメリットを挙げてみました。
魅力的な点が多いテナント経営ですが、その分デメリットも大きいです。大きな資産を動かす選択になりますから、デメリットについてもきちんと把握し、あらかじめ予防や対策などができないかを考えてみましょう。
3-1. テナント用のビルは高額になることがある
テナント用物件は、内装にかかる費用だけを考えると、住宅用物件に比べ費用を抑えることが可能であるというメリットがありました。しかし、建築費全体を考えると、住宅用物件よりもかなり高額になることがあります。
ある程度高さのあるビルにする場合には、構造も頑丈な鉄骨造や鉄筋コンクリート造にしなければならず、建築費が高額になる要因になります。また、様々なオフィス業務に対応できるよう電力供給の環境を整えたり、エレベーターを用意したり、セキュリティー対策を施したりと、住宅用物件以上の設備を整えなければならないこともあります。
内装費が抑えられたとしても、建設費自体は高額になるので、回収しなければならない費用も増えてしまいます。家賃を高額に設定できるとは言え、初期の金額面での負担は大きく、経営リスクも高くなります。
また、費用が高額であることから、金融機関から融資を受けることも大変になります。金額が大きくなる分、融資条件も厳しく審査にも時間がかかってしまうことが多いです。立地条件などによってはすぐに融資が決まる場合もありますが、基本的にはオーナーの経営力や資金力が確認されることはもちろん、どのようなテナントが利用するかまで調査されることもあります。中には、テナント向け物件には融資しないという金融機関もあります。
このように、高額な建設費やそれに付随する資金調達に関しては、収支に直接影響を与える部分でもあるので、テナント経営をしていく上での大きなデメリットになると言えます。
3-2. 空いた時の損失が大きい
テナント経営では、利用者がいれば高額な賃料収入が見込めますが、そうでなければ大きな損失になってしまいます。こうした空室時の損失の大きさは、テナント経営の最大のデメリットです。
アパートやマンションでは、部屋の数が多ければ多いほど、空室時の損失の影響は小さくすることができます。例えば、全部で20部屋あるアパートが、満室から空室1部屋になったとしても、残りの19部屋分の家賃は確実に得ることができますし、賃料収入も1割分の損失で抑えることができます。
一方、テナント経営の場合には、1社が複数のスペースを利用することも多く、貸し出せるスペースが20あったとしても、実際に契約しているのは4~8社ということがよくあります。小規模のテナント用物件であれば、1社が全てのスペースを借りることになる可能性もあります。
このようなテナント用物件では、1社が退去してしまうだけでも、大きな損失につながってしまいます。また、その後利用者が見つからず、空室の状態が長続きするようになると、その損失は更に大きくなっていきます。投資する金額が大きい分、このような収入減に直接つながるリスクは致命傷となることも多く、あらかじめきちんと把握しておかなければなりません。
3-3. 固定資産税・都市計画税の軽減措置がない
アパートやマンションは、たとえ賃貸物件であっても、住宅用地として固定資産税や都市計画税の軽減措置を受けることができます。例えば、固定資産税であれば、固定資産税評価額×1.4%が通常の土地の納税額となりますが、住宅用地では、200㎡以下の部分は固定資産税評価額の6分の1、200㎡超の部分は固定資産税評価額の3分の1まで軽減されます。
都市計画税に関しても、通常は固定資産税評価額×最高0.3%であるのに対し、住宅用地は、軽減措置によって200㎡以下の部分は3分の1、200㎡超の部分は3分の2になります。また、平成30年3月31日までに新築されたものであれば、3年間または5年間、新築部分120㎡までについて、固定資産税が2分の1になるような特例も設けられています。
このように住宅用地に該当するアパートやマンションは、高い節税効果を期待することができます。
一方、テナント用のビルは、このような住宅用地には該当しないので、同じような軽減措置を受けることができず、高い節税効果も期待できません。もし、固定資産税や都市計画税対策としてテナント経営を考えているのであれば、最適な選択肢とは言えなくなります。
3-4. テナントの経営状態や業界に左右される
テナント経営には、契約しているテナントの経営状態や業界の景気の良し悪しに影響されるというデメリットもあります。アパートやマンションのような住宅であれば、たとえ不況になったとしても、入居者がすぐに退去していくということはあまり考えられません。
しかし、テナントの場合、経営状態によっては規模の縮小のため店舗を閉店したり、移転したり、最悪の場合は倒産してしまったりする可能性が考えられます。そうなると、もちろん空室状態になり、賃料収入が減るということですから、住宅用物件の経営よりも、景気など外部からの影響を受けやすいということになります。
こうしたテナントの経営状態による退去は、企業規模の大小や、都市部か地方かに関わらず、全てのテナント経営で考えられるリスクです。当然、オーナーが経営に関して意見をすることなどできないので、世の中の動向を把握しながら、できるだけ経営状態の安定したテナントを見極めることがカギになります。
まとめ:土地活用としてテナント経営するメリットとリスク
このように、土地活用として行うテナント経営には、大きなメリットがある分デメリットも大きく、ハイリスクハイリターンという側面を持っていることが分かりました。土地活用がはじめてという人には、リスクが大きく手を出しにくい活用方法かもしれませんが、マイナス面への対策がない訳ではありません。
どんな活用方法にもデメリットはあります。そのデメリットを把握し、予防や対策を用意しておくことで、危機を回避できたり、マイナスの影響を最小限に抑えることができたりします。テナント経営はメリットが大きい分、きちんと経営できれば効果的な土地活用になるので、選択肢のひとつとして一度検討してみるのも良いかもしれません。